約6600万年前、直径約10〜15キロメートルの小惑星が、現在のメキシコ・ユカタン半島北部に秒速約20キロメートルで衝突した。衝突のエネルギーは広島型原子爆弾の約100億倍に相当し、直径約180キロメートルの巨大クレーター「チクシュルーブ」を形成した。このK-Pg境界の大量絶滅は、ビッグファイブの中で最も有名であり、恐竜の時代に終止符を打った事変である。
衝突の瞬間、数百キロメートル圏内のあらゆる生物は衝撃波と高温で即死した。大量の岩石破片が大気圏を突き抜けて宇宙空間に放出され、再突入の際の摩擦熱で地球全体の大気が数百度に加熱された。世界中の森林が自然発火し、大規模な山火事が地球規模で発生。さらにユカタン半島の地盤に含まれていた硫酸塩岩石が蒸発し、大量の硫酸エアロゾルが成層圏に滞留した。
衝突後の数週間から数か月、粉塵と煤が太陽光を遮り、「衝突の冬」と呼ばれる暗黒状態が地球を覆った。2017年、アメリカ国立大気研究センター(NCAR)の研究では、煤による日光遮断で地表気温が最大で約16℃低下し、光合成が約2年間停止したと推定された。陸上の食物連鎖は根本から崩壊し、海洋でも植物プランクトンの激減が連鎖的な大量死を招いた。
非鳥型恐竜はこの事変で完全に姿を消した。翼竜、首長竜、モササウルス類といった大型爬虫類も全滅し、アンモナイトも地球から永久に消えた。全生物種の約76%が絶滅。しかし体重25キログラム以下の小型動物は比較的生存率が高く、地中や水中に潜む生活様式が生存の鍵だったと考えられている。
2016年に実施された国際掘削プロジェクトでは、チクシュルーブ・クレーターの中心にある「ピークリング」から岩石試料が採取された。分析の結果、衝突から数分で深さ30キロメートルの地殻が一瞬にして液体のように跳ね返ったことが判明した。花崗岩が砂のように振る舞う極限状態が、衝突の凄まじさを物語っている。
だが、この壊滅的な破壊は新しい時代の幕開けでもあった。恐竜が消えた世界で、小型の哺乳類は爆発的な適応放散を遂げた。絶滅からわずか30万年後には哺乳類の体の大きさは3倍に増加し、やがて霊長類、鯨類、食肉類へと多様化していく。6600万年という歳月の果てに、一種の霊長類がこの文章を読んでいる。あの小惑星が地球に落ちなければ、私たちはここにいない。
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