約2億9900万年前から約2億5190万年前まで続いたペルム紀は、古生代最後の時代である。すべての大陸が一つに合体した超大陸パンゲアが形成され、その内側にはテチス海が入り込み、外側を巨大なパンサラッサ海が取り囲んでいた。海では紡錘虫(フズリナ)が浅海に大繁栄し、三葉虫は種数を減らしつつも命脈を保っていた。陸上では、背中に巨大な帆を持つディメトロドンに代表される単弓類(哺乳類型爬虫類)が生態系の頂点に君臨し、ペルム紀後期にはゴルゴノプスのような獣弓類が大型捕食者として繁栄していた。初期は寒冷だったペルム紀の気候は末期に向けて温暖化し、平均気温は約23℃に達した。これは過去6億年で最も高い水準である。
しかし約2億5190万年前、ペルム紀と三畳紀の境にあたる「P-T境界」で、地球史上最大の大量絶滅が発生した。英語圏ではこれを「グレート・ダイイング(大死滅)」と呼ぶ。海洋生物は種レベルで90%以上、属レベルで82%、科レベルで50%が消滅した。陸上でも脊椎動物の82%の科が姿を消し、通常は絶滅に強いとされる昆虫すら壊滅的な被害を受けた。三葉虫、フズリナ、古生代型サンゴ(四放サンゴ・床板サンゴ)など古生代を代表する生物群が完全に絶滅し、約3億年続いた古生代の生態系が完膚なきまでに崩壊したのだ。
この未曾有の破局の引き金とされるのが、現在のシベリアで発生した史上最大の火山活動「シベリア・トラップ」である。マントル深部から上昇したスーパープルームが地殻を突き破り、約200万年にわたって溶岩を噴出し続けた。その総体積はアメリカ合衆国の国土全体を深さ1kmの溶岩で覆い尽くすほどの規模で、噴出した岩石は約500万km²にわたって堆積した。MITの研究チームは、爆発的な噴火がP-T境界の約30万年前に始まり、噴火スタイルが溶岩流から地下への貫入(シル)に変化したことが絶滅の直接的な引き金となったことを明らかにした。シルが石炭層や蒸発岩を加熱し、大量の温室効果ガスが一気に解放されたのだ。
だが火山活動そのものは約200万年続いたのに対し、絶滅はわずか6万年ほどの期間に集中した。なぜこれほど短期間に壊滅的な被害が生じたのか。2024年9月、イギリスのブリストル大学と中国地質大学の共同研究チームが、科学誌『Science』に画期的な論文を発表した。シベリア・トラップから放出された二酸化炭素により大気中のCO₂濃度が約410ppmから約860ppmへ倍増すると、海洋の深層循環が崩壊し、パンサラッサ海で「メガ・エルニーニョ」と呼ぶべき超巨大なエルニーニョ現象が発生したというのだ。現代のエルニーニョが1~2年で終息するのに対し、ペルム紀末のそれは10年以上も持続した。長期の干ばつが森林を枯死させ、大規模な山火事が頻発し、続く数年は大洪水が襲った。気候が激しく揺れ動く中で、陸上の植生が崩壊したことでCO₂を吸収する仕組みが失われ、温暖化がさらに加速するという正のフィードバックが暴走したのだ。
東北大学の海保邦夫名誉教授らの研究もまた、決定的な証拠を積み上げてきた。1200℃を超える高温でなければ生成されない有機分子「コロネン」を世界各地のP-T境界層から検出し、シベリアの大規模火山活動と絶滅を直接結びつけたのだ。さらに東京大学の研究チームは、絶滅の最中に数百年スケールで火災と土壌流出が繰り返し発生し、同時に海洋が無酸素化したことを高解像度の地層分析で示した。日本の岐阜県犬山にもP-T境界層が露出しており、黒ずんだ地層が当時の海洋酸欠状態を雄弁に物語っている。
絶滅のパターンには重要な特徴があった。陸上の絶滅が海洋の絶滅より数万年先行していたのだ。メガ・エルニーニョは陸上の気温を急激に押し上げ、多くの種の耐熱限界を超えた。移動できる動物はごくわずかで、植物にはなすすべがなかった。その後、海水温の上昇と酸性化が海洋を襲い、石灰質の殻を持ち鰓を持たない生物が最も深刻な打撃を受けた。全球的にサンゴ礁が死滅し、炭酸塩の生成量はほぼゼロにまで落ち込んだ。
しかし、この究極の試練を生き延びた生物たちがいた。ペルム紀の高酸素環境で繁栄した単弓類の大半は絶滅したが、その一部は横隔膜を進化させて腹式呼吸を獲得し、低酸素の時代を細々と生き抜いた。このグループこそが、のちの哺乳類の直系の祖先である。一方、気嚢という特殊な呼吸システムで低酸素に適応した主竜類は、続く三畳紀で爆発的に多様化し、やがて恐竜として中生代を支配していく。生態系の回復には500万年以上を要したが、「大死滅」は古生代の世界を根底から覆し、中生代という全く新しい時代の扉を開いたのである。
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