第だい3の大量絶滅たいりょうぜつめつ ― P-T境界きょうかい、史上しじょう最大さいだいの「大死滅だいしめつ」

テーマ:古生物学(ビッグファイブ第3回) / 5分速読

約やく2億おく9900万年前まんねんまえから約やく2億おく5190万年前まんねんまえまで続つづいたペルム紀きは、古生代こせいだい最後さいごの時代じだいである。すべての大陸たいりくが一ひとつに合体がったいした超大陸ちょうたいりくパンゲアが形成けいせいされ、その内側うちがわにはテチス海かいが入いり込こみ、外側そとがわを巨大きょだいなパンサラッサ海かいが取とり囲かこんでいた。海うみでは紡錘虫ぼうすいちゅう(フズリナ)が浅海せんかいに大繁栄だいはんえいし、三葉虫さんようちゅうは種数しゅすうを減へらしつつも命脈めいみゃくを保たもっていた。陸上りくじょうでは、背中せなかに巨大きょだいな帆ほを持もつディメトロドンに代表だいひょうされる単弓類たんきゅうるい(哺乳類型爬虫類ほにゅうるいがたはちゅうるい)が生態系せいたいけいの頂点ちょうてんに君臨くんりんし、ペルム紀き後期こうきにはゴルゴノプスのような獣弓類じゅうきゅうるいが大型おおがた捕食者ほしょくしゃとして繁栄はんえいしていた。初期しょきは寒冷かんれいだったペルム紀きの気候きこうは末期まっきに向むけて温暖化おんだんかし、平均気温へいきんきおんは約やく23℃に達たっした。これは過去かこ6億年おくねんで最もっとも高たかい水準すいじゅんである。

しかし約やく2億おく5190万年前まんねんまえ、ペルム紀きと三畳紀さんじょうきの境さかいにあたる「P-T境界きょうかい」で、地球ちきゅう史上しじょう最大さいだいの大量絶滅たいりょうぜつめつが発生はっせいした。英語圏えいごけんではこれを「グレート・ダイイング(大死滅だいしめつ)」と呼よぶ。海洋かいよう生物は種しゅレベルで90%以上いじょう、属ぞくレベルで82%、科かレベルで50%が消滅しょうめつした。陸上りくじょうでも脊椎動物せきついどうぶつの82%の科かが姿すがたを消けし、通常つうじょうは絶滅ぜつめつに強つよいとされる昆虫こんちゅうすら壊滅的かいめつてきな被害ひがいを受うけた。三葉虫さんようちゅう、フズリナ、古生代型こせいだいがたサンゴ(四放しほうサンゴ・床板しょうばんサンゴ)など古生代こせいだいを代表だいひょうする生物群せいぶつぐんが完全かんぜんに絶滅ぜつめつし、約やく3億年おくねん続つづいた古生代こせいだいの生態系せいたいけいが完膚かんぷなきまでに崩壊ほうかいしたのだ。

この未曾有みぞうの破局はきょくの引ひき金がねとされるのが、現在げんざいのシベリアで発生はっせいした史上しじょう最大さいだいの火山かざん活動かつどう「シベリア・トラップ」である。マントル深部しんぶから上昇じょうしょうしたスーパープルームが地殻ちかくを突つき破やぶり、約やく200万年まんねんにわたって溶岩ようがんを噴出ふんしゅつし続つづけた。その総体積そうたいせきはアメリカ合衆国がっしゅうこくの国土こくど全体ぜんたいを深ふかさ1kmの溶岩ようがんで覆おおい尽つくすほどの規模きぼで、噴出ふんしゅつした岩石がんせきは約やく500万まんkm²にわたって堆積たいせきした。MITの研究けんきゅうチームは、爆発的ばくはつてきな噴火ふんかがP-T境界きょうかいの約やく30万年前まんねんまえに始はじまり、噴火ふんかスタイルが溶岩流ようがんりゅうから地下ちかへの貫入かんにゅう(シル)に変化へんかしたことが絶滅ぜつめつの直接的ちょくせつてきな引ひき金がねとなったことを明あきらかにした。シルが石炭層せきたんそうや蒸発岩じょうはつがんを加熱かねつし、大量たいりょうの温室効果おんしつこうかガスが一気いっきに解放かいほうされたのだ。

だが火山かざん活動かつどうそのものは約やく200万年まんねん続つづいたのに対たいし、絶滅ぜつめつはわずか6万年まんねんほどの期間きかんに集中しゅうちゅうした。なぜこれほど短期間たんきかんに壊滅的かいめつてきな被害ひがいが生しょうじたのか。2024年ねん9月がつ、イギリスのブリストル大学だいがくと中国ちゅうごく地質大学ちしつだいがくの共同きょうどう研究けんきゅうチームが、科学かがく誌し『Science』に画期的かっきてきな論文ろんぶんを発表はっぴょうした。シベリア・トラップから放出ほうしゅつされた二酸化炭素にさんかたんそにより大気中たいきちゅうのCO₂濃度のうどが約やく410ppmから約やく860ppmへ倍増ばいぞうすると、海洋かいようの深層循環しんそうじゅんかんが崩壊ほうかいし、パンサラッサ海かいで「メガ・エルニーニョ」と呼よぶべき超巨大ちょうきょだいなエルニーニョ現象げんしょうが発生はっせいしたというのだ。現代げんだいのエルニーニョが1~2年ねんで終息しゅうそくするのに対たいし、ペルム紀き末まつのそれは10年ねん以上いじょうも持続じぞくした。長期ちょうきの干かんばつが森林しんりんを枯死こしさせ、大規模だいきぼな山火事やまかじが頻発ひんぱつし、続つづく数年すうねんは大洪水だいこうずいが襲おそった。気候きこうが激はげしく揺ゆれ動うごく中なかで、陸上りくじょうの植生しょくせいが崩壊ほうかいしたことでCO₂を吸収きゅうしゅうする仕組しくみが失うしなわれ、温暖化おんだんかがさらに加速かそくするという正せいのフィードバックが暴走ぼうそうしたのだ。

東北大学とうほくだいがくの海保邦夫かいほうくにお名誉教授めいよきょうじゅらの研究けんきゅうもまた、決定的けっていてきな証拠しょうこを積つみ上あげてきた。1200℃を超こえる高温こうおんでなければ生成せいせいされない有機ゆうき分子ぶんし「コロネン」を世界せかい各地かくちのP-T境界きょうかい層そうから検出けんしゅつし、シベリアの大規模だいきぼ火山かざん活動かつどうと絶滅ぜつめつを直接ちょくせつ結むすびつけたのだ。さらに東京大学とうきょうだいがくの研究けんきゅうチームは、絶滅ぜつめつの最中さなかに数百年すうひゃくねんスケールで火災かさいと土壌流出どじょうりゅうしゅつが繰くり返かえし発生はっせいし、同時どうじに海洋かいようが無酸素化むさんそかしたことを高解像度こうかいぞうどの地層ちそう分析ぶんせきで示しめした。日本にほんの岐阜県ぎふけん犬山いぬやまにもP-T境界きょうかい層そうが露出ろしゅつしており、黒くろずんだ地層ちそうが当時とうじの海洋かいよう酸欠さんけつ状態じょうたいを雄弁ゆうべんに物語ものがたっている。

絶滅ぜつめつのパターンには重要じゅうような特徴とくちょうがあった。陸上りくじょうの絶滅ぜつめつが海洋かいようの絶滅ぜつめつより数万年すうまんねん先行せんこうしていたのだ。メガ・エルニーニョは陸上りくじょうの気温きおんを急激きゅうげきに押おし上あげ、多おおくの種しゅの耐熱限界たいねつげんかいを超こえた。移動いどうできる動物どうぶつはごくわずかで、植物しょくぶつにはなすすべがなかった。その後のち、海水温かいすいおんの上昇じょうしょうと酸性化さんせいかが海洋かいようを襲おそい、石灰質せっかいしつの殻からを持もち鰓えらを持もたない生物せいぶつが最もっとも深刻しんこくな打撃だげきを受うけた。全球的ぜんきゅうてきにサンゴ礁しょうが死滅しめつし、炭酸塩たんさんえんの生成量せいせいりょうはほぼゼロにまで落おち込こんだ。

しかし、この究極きゅうきょくの試練しれんを生いき延のびた生物せいぶつたちがいた。ペルム紀きの高酸素こうさんそ環境かんきょうで繁栄はんえいした単弓類たんきゅうるいの大半たいはんは絶滅ぜつめつしたが、その一部いちぶは横隔膜おうかくまくを進化しんかさせて腹式呼吸ふくしきこきゅうを獲得かくとくし、低酸素ていさんその時代じだいを細々ほそぼそと生いき抜ぬいた。このグループこそが、のちの哺乳類ほにゅうるいの直系ちょっけいの祖先そせんである。一方いっぽう、気嚢きのうという特殊とくしゅな呼吸こきゅうシステムで低酸素ていさんそに適応てきおうした主竜類しゅりゅうるいは、続つづく三畳紀さんじょうきで爆発的ばくはつてきに多様化たようかし、やがて恐竜きょうりゅうとして中生代ちゅうせいだいを支配しはいしていく。生態系せいたいけいの回復かいふくには500万年まんねん以上いじょうを要ようしたが、「大死滅だいしめつ」は古生代こせいだいの世界せかいを根底こんていから覆くつがえし、中生代ちゅうせいだいという全まったく新あたらしい時代じだいの扉とびらを開ひらいたのである。

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