第だい2の大量絶滅たいりょうぜつめつ ― F-F境界きょうかい、「魚さかなの時代じだい」の終焉しゅうえん

テーマ:古生物学(ビッグファイブ第2回) / 5分速読

約やく4億おく1600万年前まんねんまえから約やく3億おく5920万年前まんねんまえまで続つづいたデボン紀きは、「魚さかなの時代じだい」と呼よばれるほど多様たような魚類ぎょるいが進化しんか・繁栄はんえいした時代じだいである。鎧兜よろいかぶとのような硬かたい外骨格がいこっかくをまとった甲冑魚かっちゅうぎょ、体長たいちょう6mを超こえる巨大きょだいな板皮類ばんぴるいダンクルオステウスが海うみの頂点ちょうてん捕食者ほしょくしゃとして君臨くんりんし、現世げんせいの魚類ぎょるいの大部分だいぶぶんが属ぞくする硬骨魚類こうこつぎょるいも大おおきく発展はってんした。ハイギョやシーラカンスなど肺はいを持もつ肉鰭類にくきるいが登場とうじょうし、さらにデボン紀き後期こうきにはアカントステガやイクチオステガといった最初さいしょの両生類りょうせいるいが水辺みずべに姿すがたを現あらわし、脊椎動物せきついどうぶつの陸上りくじょう進出しんしゅつが始はじまった。

海うみだけでなく陸上りくじょうも大おおきく変貌へんぼうした時代じだいだった。約やく4億おく2000万年前まんねんまえ、複数ふくすうの陸塊りくかいが衝突しょうとつしてユーラメリカ大陸たいりくが赤道せきどう直下ちょっかに形成けいせいされた。衝突しょうとつで生しょうじた巨大きょだいな山脈さんみゃくが大気たいきの流ながれを遮さえぎり、恒常的こうじょうてきな降雨こううをもたらしたため、長大ちょうだいな河川かせんが出現しゅつげんした。アルカエオプテリスというシダ状じょうの葉はを茂しげらせる樹木じゅもく状じょう植物しょくぶつが誕生たんじょうし、地球ちきゅう最古さいこの森林しんりんが形成けいせいされた。昆虫類こんちゅうるいもデボン紀き前期ぜんきに誕生たんじょうしている。生命せいめいはまさに海うみと陸りくの両方りょうほうで爆発的ばくはつてきな発展はってんを遂とげていた。

ところが約やく3億おく7400万年前まんねんまえ、フラスニアン期きとファメニアン期きの境さかいにあたる「F-F境界きょうかい」で、全ぜん生物種の約やく82%が絶滅ぜつめつする大惨事だいさんじが起おきた。この事変じへんは「ケルワッサー事変じへん」とも呼よばれる。特徴的とくちょうてきなのは、高緯度こういどより低緯度ていいどの、淡水域たんすいいきより海水域かいすいいきにおいて絶滅率ぜつめつりつが高たかかったことだ。温暖おんだんな浅あさい海うみに暮くらすサンゴ礁しょうの生物せいぶつが壊滅的かいめつてきな打撃だげきを受うけ、ダンクルオステウスを含ふくむ板皮類ばんぴるいや甲冑魚かっちゅうぎょが絶滅ぜつめつした。しかも、デボン紀き後期こうきの絶滅ぜつめつは一度いちどで終おわらず、約やく2000万年まんねんの間あいだに大だい・中ちゅう・小しょう3回かいの絶滅ぜつめつ事件じけんが連続れんぞくして発生はっせいした。

この絶滅ぜつめつには複数ふくすうの要因よういんが重かさなったと考かんがえられている。まず、陸上りくじょうで植物しょくぶつが根ねを進化しんかさせたことで、岩いわだらけだった大地だいちが栄養えいよう豊ゆたかな土壌どじょうへ変かわり、大量たいりょうの栄養分えいようぶんが河川かせんを通つうじて海うみに流入りゅうにゅうした。これにより藻類そうるいが爆発的ばくはつてきに繁殖はんしょくし、海中かいちゅうの酸素さんそを奪うばい去さる「海洋無酸素事変かいようむさんそじへん」が引ひき起おこされた。また、植物しょくぶつの光合成こうごうせいが大気中たいきちゅうの二酸化炭素にさんかたんそを吸収きゅうしゅうし続つづけたことで、地球ちきゅう全体ぜんたいの寒冷化かんれいかも進行しんこうした。皮肉ひにくにも、陸上りくじょうの生命せいめいの繁栄はんえいそのものが海うみの生命せいめいを追おい詰つめたのだ。

2021年ねん、東北大学とうほくだいがくの海保邦夫かいほうくにお名誉教授めいよきょうじゅらの研究けんきゅうグループは、決定的けっていてきな証拠しょうこを発表はっぴょうした。フランス南部なんぶ・中国ちゅうごく南部なんぶ・ベルギーの地層ちそうから、1200℃を超こえる高温こうおんでなければ生成せいせいされない有機ゆうき分子ぶんし「コロネン」と水銀すいぎんが同時どうじに濃縮のうしゅくしていることを発見はっけんしたのだ。これは東ひがしヨーロッパやシベリアにおける大規模だいきぼな火山かざん活動かつどうの痕跡こんせきであり、噴出ふんしゅつした二酸化硫黄にさんかいおうが短期たんきの寒冷化かんれいかを、その後あとの二酸化炭素にさんかたんそとメタンが長期ちょうきの温暖化おんだんかを引ひき起おこしたとされる。さらに絶滅ぜつめつ規模きぼが大おおきい事件じけんほどマグマの温度おんどが高たかく、火山かざん活動かつどうの規模きぼも大おおきかったことが初はじめて示しめされた。ほかにもイリノイ大学だいがくの研究けんきゅうグループは、数十光年すうじゅうこうねん先さきで起おきた超新星ちょうしんせい爆発ばくはつがオゾン層そうを破壊はかいした可能性かのうせいを2020年ねんに指摘してきしており、原因げんいんの全容ぜんよう解明かいめいは今いまも続つづいている。

この大量絶滅たいりょうぜつめつの傷跡きずあとは深ふかかった。海洋かいよう生態系せいたいけいが絶滅前ぜつめつまえの多様性たようせいを回復かいふくするまでに、実じつに3600万年まんねんもの歳月さいげつを要ようした。デボン紀きに続つづく石炭紀せきたんきの最初さいしょの1500万年間まんねんかんは陸上りくじょう動物どうぶつの化石かせきがほとんど見みつからず、「ローマーのギャップ」と呼よばれる空白くうはく期きが存在そんざいする。しかし一方いっぽうで、古代こだいの巨大魚きょだいぎょたちが消きえたことで、現代型げんだいがたの魚類ぎょるいが繁栄はんえいする道みちが開ひらかれた。また、電気でんき受容じゅよう感覚かんかくであるロレンチーニ器官きかんを持もち、卵胎生らんたいせいという繁殖はんしょく戦略せんりゃくを備そなえていたサメ類るいは生いき延のび、以後いご4億年おくねん近ちかく海うみの支配者しはいしゃとして君臨くんりんし続つづけている。絶滅ぜつめつは終おわりであると同時どうじに、新あたらしい時代じだいの幕開まくあけでもあったのだ。

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