約4億8500万年前から約4億4400万年前まで続いたオルドビス紀は、生命の多様性が爆発的に拡大した時代である。「オルドビス紀」という名は、イギリスのウェールズ地方に暮らしていた古代ケルト系部族「オルドウィケス族」に由来する。この時期、陸上に進出した生物はまだほとんどおらず、生命の主な舞台は海だった。オウムガイに代表される軟体動物、三葉虫などの節足動物、筆石と呼ばれる半索動物、床板サンゴ、ウミユリなどの棘皮動物が浅い海を埋め尽くし、海洋はまさに生物たちの楽園となっていた。現在わかっている数字では、海洋生物はおよそ500科4500属に達し、顕生代全体の約12%がこの時代に生息していたとされる。さらにオルドビス紀後期には、顎を持つ魚類(顎口類)が初めて出現した。我々哺乳類を含むすべての脊椎動物の遠い祖先がこの海に泳いでいたのだ。
しかし約4億4400万年前、この繁栄は突如として終わりを告げる。オルドビス紀とシルル紀の境、いわゆる「O-S境界」で、全生物種の約85%が姿を消す大量絶滅が発生したのだ。2020年、中国・アメリカ・オーストラリアの共同研究チームは、雲南省永善県で発見されたオルドビス紀とシルル紀の完全に連続した地層を分析し、この絶滅が4億4310万年前から4億4290万年前までのわずか20万年の間に起きたとする見解を発表した。
では、なぜこの絶滅は起きたのか。当時、巨大な大陸ゴンドワナが南極域に位置しており、そこに大規模な氷床が形成された。2017年、東北大学の海保邦夫教授らと米アマースト大学の研究チームは、中国とアメリカの地層から水銀の濃集を発見し、大規模な火山噴火が寒冷化の引き金だったとする仮説を発表した。火山から成層圏に放出された大量の二酸化硫黄ガスが硫酸エアロゾルとなって太陽光を反射し、地球規模の寒冷化を引き起こしたというシナリオだ。海水温は43℃あったものがオルドビス紀末期には23℃前後まで急降下したとされる。
さらに2024年には、オーストラリアのモナシュ大学の研究チームが興味深い新説を提唱した。約4億6600万年前、地球のそばで小惑星が破壊され、その破片が地球の周囲にリング(環)を形成したというのだ。この環が太陽光を遮り、長期的な寒冷化を招いたことが大量絶滅につながった可能性があるという。ほかにも、NASAとカンザス大学が2005年に発表した、超新星爆発によるガンマ線バーストがオゾン層を破壊したという説もある。原因の特定は現在も進行中の研究テーマであり、大絶滅展でもモロッコでの発掘調査の成果が世界初公開されている。
絶滅は2段階で進んだ。まず氷床の発達にともなう海水準の低下が浅海の生息地を激減させた。次に、寒冷期が終わり氷が溶けて海面が再び上昇すると、海の酸素濃度が急低下し、さらに有毒な金属が海水に溶け出した。生き残りかけた生物をさらに追い打ちする、いわば「セカンドインパクト」が襲ったのだ。三葉虫、腕足類、サンゴ、コノドント(ヤツメウナギに似た生物)、筆石の大半が消え去った。
だが全てが失われたわけではない。干潟のような外敵の少ない環境に暮らしていたシャミセンガイの仲間は生き延び、現在も11種が生存している。続くシルル紀には海洋が回復し、生物たちは新しい進化の道を歩み始めた。興味深いことに、この最初の大量絶滅では生命の進化の方向性そのものは大きく変わらなかったとされる。数百万年後には生態系がほぼ元通りに回復し、やがて生物たちは陸上への大進出を果たしていく。4億年以上前の海で起きた最初の大惨事は、生命の強靱さを証明する物語でもあるのだ。
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